母の生と死に向き合う。

素敵にいってみよう

母のこと

第6話 一緒に朝食を

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子供の遠足があった朝。
いつもより早めに子供を送り、実家へ寄ったら
ちょうど朝ご飯を食べているところでした。

「一緒に食べていかない?」と言われ、久々に座る食卓。
でも台所に立っているのは父で、
テーブルには母がにこにこして座っていました。
うちは、父が食事を作ることは珍しくないので
さほど驚きはしませんでしたが、
母が、朝食に一切手を付けていないのです。

「ごはんを全然食べんのよ。
 頼むから食べてくれや。痩せたら目も当てられんぞ」と父。
母は冗談めかして「豚になるよりましよ」
ちょっとちょっと・・口は達者なようだけど・・
「食べなかったら、体力なくなって、歩けなくなるよ。
 Yおじちゃんみたいになるよ」

数年前、知人のYおじちゃんは、
ある時から食欲が落ちて、少しして歩けなくなり、
それから10日ほどでなくなりました。
闘病中ではありましたが、それまではとても元気な人でした。

母もまた、そんな風に逝ってしまうのではないか。
食事をとらない母は、穏やかにしていましたが、
死に向かって自然に歩き始めたようにも見えて、
私は、これまで経験したことのないような不安な気持ちになりました。

炊き立てのご飯と、お味噌汁。
90歳の父が作った食事です。私は不安を打ち消すように
「これ美味しいね。やっぱりお出汁が違うね」と
あえて明るく、にこにこして平らげました。
「あんたがそうやって食べてくれたら嬉しいわ。
 いつも余って、捨てないかんなる」と父。

母はもともと小食でしたが、ここ最近は、
さらに食べなくなったと、この時聞きました。

かかりつけの病院でこのことも相談してみましたが
それでは入院しましょうか?と言われ
「入院したらよけいに悪くなるから、いいわ」と母。
うーん・・まあ、それもそうかもしれませんね、とお医者さん。

なにも、できなかった。
近所に住んでるのに。
毎日寄ってるのに。

今も歯がゆい気持ちが残ります。
でも、仕方がなかったんですね。
「人生には絶対という言葉はない」と、昔ある人に習いましたが、
人生の中には逆らえない「流れ」が存在する時もある、と思いました。









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