母の生と死に向き合う。

素敵にいってみよう

母のこと

最終話 素敵にいってみよう

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母が旅立って、もう2年半が過ぎた。
あれからいろんなことがあった。

めそめそとしていた私を、子供たちがなぐさめてくれた。
当時6歳の娘は「まま、元気出して」
4歳の息子は「まま、僕を作ってくれてありがとう」
これを何度も言ってくれた。嬉しかった。

その年に父の姉もなくなり、私が徹夜で看取りをした。
母のことがあったから、もう大丈夫だった。

父は今年で92歳になる。とても元気でいてくれている。
毎朝、買い物して実家に行き、一緒にご飯を食べている。
父は映画が好きだ。今はコロナの影響で外出は控えているが、
テレビでよく見ている。今日の映画はヒッチコックの「知りすぎていた男」。
久しぶりに「ケ・セラ・セラ」を聴いた。この映画の主題歌なのだ。笑みがこぼれた。
子供たちはもう小学生。元気に通っている。

どん底の時は、笑顔で話すとかもう一生できないと本気で思っていた。
それでも、時間が流れていくうち、
人のやさしさをありがたく思い、
きれいな花を見ると、心が晴れていったりする。
そう思えただけでも良しと思う。


母は生前「芸術なぞ、ひとりよがりだ」と言ったことがある。
そんな母も芸術家だった。
興味なんて人それぞれ。当事者と他人の心とは関係ないと、どこかで思っていたのに。

それでも、ある曲を聴いたとき、歌っているのは全然知らない人なのに、
その声の向こうに自分の想いを馳せることができるのはなぜだろう。
そして、癒えていく何かがそこにはあったりする。

だから、自然や芸術など、何かを感じ取れるものには、
不思議な力があると今は思っていて、
それを感じ取れることは、ある意味、元気な証拠だとも思う。

これからまたいろんなことがあるだろう。
けれどやっぱり、
ユーモア、音楽、花の色、美味しいもの、移り変わる季節などに
目が行く時がまたやってくる。
そして、いろんなことを感じ取れるようになってきたら
それは、我に返ったということだろう。

その時は自分を心から「素敵だ」と思える人でありたい。

心の内に向かうように、数々の作品を創り続けた母。
その生き方にも、通じるものがあると思うから。

だから、あえて言う。どこか欽ちゃんのようなセリフで、明るく、
自分に言い聞かせているのです。


「素敵に、いってみよう!!」と。





完。

最後まで読んで下さって、本当にありがとうございました。

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