主治医さんから、母の容態について聞く日がやってきました。
いろいろ病気しているので、主治医は二人いました。
詳しい内容は省略しますが、あまり良くない見解でした。
難しい単語が続き、メモをとってみるけれど
見返しても、あまり深くは理解できませんでした。
でも主治医さんはひとつひとつ丁寧に話してくれました。
旦那さんが付き添ってくれたので、心細さは若干和らいでいて、
思い切って、母の寿命はあとどれぐらいか、聞いてみました。
「一年から半年、もつかどうかというところです」
一年から半年で母が死んでしまう?
そんなことがあるのでしょうか。
実感がわかず、輪郭がぼやけた不安が残ります。
どうしよう。どうしよう。
けれど、けれど。
ベッドで眠る母を見ると、私にはそんな風には思えませんでした。
今思っても不思議なんですが、どうみても母は半年どころか、
もうそれほど長くはない気がしてなりませんでした。
でも証拠はないので、旦那さんにぼやいてみても
「今話、きいたでしょ。大丈夫、心配しすぎだって」
と言われてしまいます。
ふと目覚めた母が、私を見つけてこう言いました。
「あんた、どこから来た」
一瞬私は何を聞かれたのかと思いました。
なんと返そうかと思っていると母は続けて「不思議な」といい、
少し笑いました。
母自身は、わからないことを悲観はしていないようでした。
私はちょっとほっとしてこう返しました。
「どこからって、あれよ。
呼ばれて飛び出て、ジャジャジャジャーンよ」
ハクション大魔王の有名なセリフを大真面目に言った。
母は声を出して笑いました。
その一瞬で、
よし、これからの会話はユーモアでいこう、と決めました。
何も真実をそのまま言わなくてもいいんだ。
悲観している場合じゃない。
できるだけ愉快に笑っていたほうがいい。
起こっていくことを、明るく受け止めることは出来るはず。
こんな挑戦、やったことないけど、挑むしかない。
頑張ろう。いつか本当に、笑い話になるまで。
母は私が部屋を去るまで、ずっとクスクス笑っていました。
私はこみあげるものを全てシャットアウトしました。
第10話「呼ばれて飛び出て、ジャジャジャジャーン」
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