5月7日。
子供ふたりを登園させ、いったん帰宅。
だんなさんがお弁当を置いてくれている。感謝。
「私はタクシーで病院に行くから、あんたはゆっくり来なさい」
ゆうべの父の言葉。これにも感謝。
でもゆっくりもしてられないので、しっかり食べて病院へ。
病室に行くと父が嬉しそうに「安定したやと」と言った。
えええ本当?安定!!
どこまでの安定かわからないけど、ひとまずほっとした。
「5月7日までは持たしたいと医者には言われとったけど」
やっぱり弱っていたんだ。持って安定してくれてよかった。
母は肺炎を起こしていた。
レントゲンを比較すると、昨日は真っ白だった肺が
今日は霧が晴れたかのように、透明になっていた。
母は戦っていたんだ。やったね母ちゃん。
数日前、看護師さんが「口内が汚れると肺炎になりやすいんです」
といっていたことを思い出した。その後の会話はこう続いた。
「えっそれって・・10日間は何もできないということですか?」
「いいえ、看護師がケアしますので大丈夫です」
ケアしていただいても、なるときはなるんだな。
看護師さんは悪くないが、ちょっとモヤモヤっとしていた。
「おはようございます」
休みが明けた口内ケア専門の先生が、にこやかに入ってきた。
「お口のお掃除、しておきました」 私「ありがとうございます」
そして先生はこう言った。
「結構汚れていましたよ」
ん?
結構汚れていましたよ、ですと??
ああそうですか、とは言えず、
こちらが何か怠ったかのような言い方がしゃくにさわった。
モヤモヤが形をはっきりさせて黒い輪郭を現した。
私の心の中には、口の悪いおっさんが住んでいる。
『なんやとぉーー?!
こちとら肺炎で死にかけとったんやぞぉゴラァー!!』
アロハシャツをひらひらさせて凄む。
でも傍らには母がいる。ニコニコして。
ぐっとがまんだ。座っとってくれおっさん。
でも言った。
「ゴールデンウィークでしたからね」
先生はここではっとしたような顔になり
「申し訳ございません」といった。
私の中のおっさんは「けっ」とか言いながら、
影を潜めていった。
ついきつい言い方をしてしまう自分。
本当はいつも感謝してます。
第16話 アロハのおっさん
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