母の生と死に向き合う。

素敵にいってみよう

母のこと

第17話 母と歌謡曲じゃんじゃんな夜

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母も安定したし、ひとまずほっとしたのだが
ここ最近は病院を離れると、母のことが気になってしょうがなかった。

だから旦那さんにお願いして、二晩。病院に泊まることにした。

その日は夕方、旦那さんが帰ってきてから、荷物を持って病院へ行った。
下の子は泣いただろうな。ごめんよ。

母は相変わらず声は出なかったが、表情で話をしていた。
「お母さん、体調が安定したで」
「家が近づいたで」
そういうと、母は思い切り目をつぶって喜んだ。

この時私は知らなかったが、
父はお医者さんから、母は「あと1週間」だと言われていたそうだ。

私は母を退院させる、と思っていた。
これから復帰するんだという気でいた。
そう思わないと、今までの自分の道がこれからに続いていかないようで怖かったからだ。

母を喜ばせたい。
今晩はずっと、一緒にいられるんだから。

ふとスマホの動画が頭をよぎった。
歌謡曲をかけてみよう。なにかめでたいやつを。
「寅さんのテーマ」を耳元でかけてみる。
「聞こえる?うるさくない?」と聞くとうなずく。嬉しそうだ。

それからは、キングトーンズ、前川きよし、さだまさし、ブルーコメッツ、
美空ひばり、小林旭。
個室なのをいいことに、ジャンジャン大音量でならした。

母の表情はいきいきしていた。
目は口ほどにものをいうというが、まさにそうだなと思う。

途中看護師さんが入ってきたので、あっと我に返り
「ごめんなさい、他の患者さん迷惑でしょう」と聞くと
「大丈夫ですよー、みなさん耳が遠い人ばっかりだから」と
優しい言葉を返してくださった。

だいぶ時が経ったところで、
さだまさしの「案山子」を聴きながら母は眠った。

私も横のソファで寝たが、
これほど安心して寝られたのは久しぶりだった。

写真のペーパーウェイトは、小豆島のお土産。
右が50年前、母が一人旅して買ったもので、
左は20年前、私も同じく一人旅をして買ったものです。

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